《コラム》08 「小屋」

投稿日:2014.09.30

 

錆びたトタン貼りの小屋、黒く焦げた杉板を貼った小屋、屋根の板が風で飛ばないように石を載せた小屋、人里離れた田んぼや畑の中に建つ小さな小屋。こんな小屋は決して大工が建てた建物ではない。大抵はそこで農作業をする田や畑の持ち主が自分で建てた物である。当然しっかりとした基礎などなく、寸法の揃った柱や梁などを使ってあるはずもない。

 

辺りにある石を並べてその上に土台を据え、稲木に使っていた丸太を切って柱や梁として骨を組んでいく。壁や屋根は波トタンを使っていることが多い。それも色が揃っていなかったり、錆びが出てきている物もある。

それらの材料は自宅の改築工事をして剥がしたものを再利用したり、どこかの家から譲ってもらったのかもしれない。扉は引き戸もあれば、開き戸もある。ガラス戸もあれば板戸もある。用心の良い所は錠をつけている。但し新品の扉はないと言っても良い。いや、一度も見たことはない。古い家の雨戸を使っていることが多い。そんな扉もここに来るまで相当長い間使われてきたのであろう。打ち付けてある釘は錆びて抜くことも出来ないくらいだ。こんな小屋を農家の人は実に器用に建てる。また、使う材料をどこからか集めてくる。もちろんそれに使う道具も自分持ちだ。こんな簡素なつくりの小屋だが、そう簡単には壊れないのだ。台風が来て強風で飛ばされた事もあまりない。雪が降るときには自宅から小屋に来ることさえ出来ないので屋根の雪下ろしができないが、春になってつぶれていた小屋など見たことがない。

内部も自分たちが使い易いようにうまく工夫がされている。農薬や小物を置く棚があり、草刈り機やスコップなどを掛けるフック、鍬を掛けるための棒が渡してある。耕耘機の燃料、草刈りの鎌、獣よけの電気柵の部品、ざる、桶、みい、農作業に使う用具は実に様々なものがある。ホームセンターの一画の様でもある。疲れた時に休憩する為の畳が敷いてあったりもする。

 

農業は忙しい。土を耕し、種を蒔き、草取りや水やり、摘果等々実らせるまでに実に多くの手間がいる。そんな農家の作業基地としての小屋はとても重要なのである。農家の知恵と工夫で建てられた作業小屋。それは日本の農村風景の添景となり、農家の人々の暮らしの息づかいが聞こえてくるのである。

 

 

091004 soba

 

秋、豊岡市目坂にて。この小屋の扉は古い家の雨戸である。

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