《コラム》30 「移住者」

投稿日:2017.03.21

 昨年、私の住む村に神戸から若い夫婦が越してきた。まさかである。住む人がいなくなり、売りに出ている家が確かにあった。しかしその家を買い求めてここに移り住む人がいるとは、ここの住人は誰一人想像していなかった。

 私が暮らす村は現在22戸、私が生まれた当時記憶にあるだけでも33戸はあった。それ以前はもっと多くの人が暮らしていたらしい。年数を経るにつれ、住民が減ることはあっても、増えることはこの村の長い歴史の中でも一度もなかったに違いない。しかも都会の真ん中で暮らしていた夫婦がやってきたのである。えらい時代になったものである。

 この夫婦がここに来たきっかけは、豊岡市のホームページの空き家情報を見てのことらしい。今の時代、ネットでたいていの知りたい情報は探せるが、地理感覚と実際の環境はここに来てみないとわからないはずである。この夫婦は本当に下調べをして決めたのであろうか?いくら田舎暮らしに憧れているとはいえ、ここの古民家を買って暮らすことを真剣に考えたのであろうか?大丈夫かな?こちらが心配になってきた。

 当時、私が区長をしていたこともあり、初めて挨拶に来られた時、ストレートに聞いてみた。「なぜここに住もうと決めたのですか?」と。その返事は筋が通っていた。「私たちは神戸の街の中に暮らしていましたが、近所の方たちと挨拶を交わすこともなく、窓を開けることさえも嫌がられました。ここには、家の裏に大きな川が流れて水の音が聞こえます。夏には蛍が飛ぶと聞いています。窓を開けると森の風景が見えて季節が感じられ、空き地があって友達がたくさん来ても車は自由に止められます。スキーも何時でも行きたいときに直ぐに行けます。そして近くには森林公園があり、自然派の私たちに欲しい物すべてがここにはあります」なんとも人生の楽しみ方を知っている夫婦である。空き家購入のおまけについてきた一反の田んぼ。「教えてもらって米を作ります」田舎暮らしの真髄をこれから楽しむことになるのであろう。

 この村始まって以来の新たな歴史を刻むことになり、村を挙げて大歓迎会を開催し、万歳三唱をして心からこの夫婦を支援していくことになった。

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