《コラム》32 「収穫祭」
以前、移住者の話を書いたが、その夫婦が春に植えた稲が実り刈取りの時期がきた。神戸や大阪から友達がやってきて大騒ぎをしながら手で植えた苗が成長して黄金色になり、稲穂が頭を垂れるまでになった。さぁ!刈取りだ!田植えを初体験した人達が今度は稲刈りの実習にやってきた。
都会の人達は農作業着もおしゃれで、私達のもんぺに麦わら帽子という田舎の野良着とは様相が違い、カラフルなスラックスに赤いトレーナー、デニムのオーバーオール等々華やかである。彼等はそれぞれが稲刈り鎌を買ってきて、一斉に田んぼに入って刈り始める。何しろ鎌を見るのも使うのも初めての事なので危なっかしくて見ていられない。そこで隣の田んぼで作業をしている農家の方達が先生役となってレクチャーを始める。稲株の握り方から鎌の入れ方、刈った稲の裁き方を手取り足取り指導する。子供達も一緒になってお祭り騒ぎである。
移住者の夫婦は、今日の日をワクワクしながら待っていたのだという。ここに移り住み、初めて田植えをし、それが生長して米を収穫するという経験がとても新鮮であり、毎日食べるご飯を自分で作るという事がとても感動的だったのだ。田舎の暮らしの一端を見る事ができたに違いない。
刈った稲はコンバインですぐに脱穀して乾燥機に入れると一晩で乾燥ができ、翌日には籾すりをして米になる。助っ人に来た都会の人達は、米作りの貴重な体験と共に褒美として収穫した米を持ち帰る。自分達が手をかけて作ったご飯が美味しくないはずがない。作業に来てくれた人達の食卓では、目坂の村での体験が度々話題となるだろう。
稲刈りが終わった。今夜は収穫祭である。先ずは城崎温泉で汗を流す。会場の準備は村の人達が手を貸してくれる。竹を半分に割って流しそうめんのセットを作ったり、たこ焼きの名手が道具を一式持ってくる。宴の準備は万端だ。今宵は初めての米作り話を酒の肴に、豊かな秋の実りを祝うのだ。