《コラム》01 「看板と景観」

投稿日:2014.01.29

 

昨年の十一月に完成引き渡しをしたお宅に完成祝い品をお届けしました。

家族みなさんがおられて寛いでいらっしゃいました。ここの家族は母屋が別棟にあり、離れを新築されました。リビングでお茶を頂きましたが、窓からはご主人が丹精込めて作り上げて来られた庭園を眺められ、そこはとても明るくて暖かく快適な空間でした。

 

 

離れを建てたい。という施主様から話しをお聞きしたのは丁度一年前でした。

建築予定の敷地に立ち、そこから周りを見渡すと植林をしていない広葉樹の山並みが続き、山裾には田園風景が広がってそこはまさに日本の美しい田舎の原風景が広がるところでした。景観を損ねる代表的なものである看板類も視界にはなく、じっと見ているだけで春夏秋冬の四季の移ろいが創造できる豊かな気持ちになりました。

 

この豊岡の一地方都市にも都会と同じ店舗が進出してきて、大都市と同じ看板が沢山目に入ります。駅前は日本全国同じような風景になってきました。地域の文化や特色ある産業の営みが感じられなくなり、故郷の懐かしい思い出さえも消え去ろうとしています。景観を損ねずに守り残すことが大切なのは、そこに生まれ育った人たちの共有の心の財産であるからです。その点、ヨーロッパの地方都市は建物に統一感があってとても美しいです。そこの人たちは衣食住と同じくらい景観を大切にします。まさに共有の財産であることを認識しているのです。

 

田舎の人たちが、自分たちの住んでいる所の美しさや豊かさを自覚していない事を感じる事ことがあります。田舎には都会の人たちには真似の出来ない本物の暮らしがあります。食があり、空気があり、水があります。人の暮らしの原点があります。その豊かさを感じて、風景を楽しんで暮らす住まいをつくる。地方にいる建築士の大きな役割であると改めて感じた、今回の施主様との出会いでした。

 

文:里やま工房 池口善啓

 

 

長年丹精込めて作られた庭園。庭園の中には池があり、鯉が悠々と泳いでいます。

ブログ検索

アーカイブ