《コラム》04 「まちなみと景観」
豊岡市内中心部から少し離れた地域に行くと、伝統的な家並みと近代的な家並みが混在している住宅地を見かける。昨年暮れに改築をして引き渡しをしたお宅はまさにそんな場所にある。このお宅の主人との出会いは三年前に遡る。古民家再生の見学会をしたときに来場して頂いて話しを交わしたのが最初であった。古い家をなおす事がこれほど魅力的であることをご存じなかったようで随分興味を持って頂いた。工事記録のスライドを見て頂いて、なおす方法を具体的に説明したことを覚えている。その時には是非自分の家もなおそうと思われたに違いない。しかし、計画は着々とは進まなかった。
そのお宅は地域の中でも代々続く名の知れた家系であり、大きな構えをした家である。この家に生まれて地を離れた兄弟にも家の改築計画の話をすると、古い家をなおしても良くならないと思われているようで賛成できないような事であった。古い家を壊して新築をする方が立派な家が建つと言われたそうである。お母様からはお父様が建てた家を触ることには大きな抵抗があるようで、住まいの計画は頓挫してしまった。しかし、その後も主人には見学会には来て頂き、修理工事中の現場を見て頂くこともあった。そんな時に話しをしたのは、古い家を壊して新築する事は簡単だが、今住んでいる家が周囲の町並みの景観にとてもふさわしい形をしているという事。また、近年無国籍住宅のような家があっと言う間にどんどん周辺に建てられている状況を見て、こんな町並みが美しいと思われますかと言うような話もした。伝統的な姿、形を残して、なおして住み続ける事がこの家の風格を増す事になるのではないかと。
その事を理解して頂いていよいよ改築工事をする事になった。しかし、工事が始まっても主人にはまだ迷いがあったようだ。果たして完成したときに良い家になるのかどうか。そして長かった工事は完成した。主人にお願いをして見学会をさせてもらうことにした。来場者からの感想を聞いてこれまでの主人の迷いは吹っ切れた。みなさんがこの家をなおして住み続ける事を選んだ主に敬意を払っていた。古くからの知り合いの方達や、以前の会社の役員時代に付き合いのあった方など主人の付き合いの広さが感じられる。後日、「建築士さんの説明で日本文化を継承しつつ住みやすさの改善が見事に完成、感動しました」とのメールを頂いたとお聞きした。自分の決断が間違っていなかった事を実感された瞬間であったのであろう。今回の改築は、なおす事を提案し、それを受け入れて頂いた主人に感謝し、間違いのない仕事であったことに安堵した瞬間であった。
写真:改築前
写真:改築後(2013年12月竣工)