《コラム》07 「里帰り」
今年も、お盆休みを故郷で過ごす為に沢山の人たちが里帰りをしてきた。他府県ナンバーの車が家の前に止まっていて賑やかな笑い声が聞こえている。
庭にはバーベキュー用のコンロがすでにセットされている家庭もある。今夜はきっと家族揃って賑やかなパーティーが催されるのだろう。それまでに墓参りをしておかなければならない。花と線香、水桶と数珠をもって墓地まで歩く。墓地までの道すがら、出会う人たちと交わす挨拶も懐かしさが漂う。大きくなった子供の話し、家族が増えたことや大学に入学したこと、卒業して大きな有名企業に入社したことなど久しぶりに会う人たちとの話題はつきない。時には数年ぶりに出会って名前さえも忘れかけられていることもある。どこどこの次男の誰ですとか故郷の親の名前を言わなければ思い出してもらえない。しかし、自分が生まれ育った故郷の山河、家並み、目に入る風景は変わらない。
村の中を流れる川で遊んだこと、山の中をかけずり回った記憶が蘇る。一年に一度、又数年に一度しか帰って来ない人も墓地に詣って先祖に感謝の念を抱き、他家の墓標に新しく刻まれた名前を見つけて時の流れを感じる。懐かしく一生忘れることのない心の故郷がある。故郷の景観を守る意味はここにある。
十三年前、自分が会社を興そうと考えた時に会社の名前をどうしようかと随分悩んだ。会社設立が九月であったので、その悩んでいた時期がちょうど今の頃であった。自分の名前を企業名にしたのではインパクトがない、家づくりのイメージと社名がぴったりと一致していなくてはならない…と、あるコンサルタントの言葉が頭の中に残っていた。その時に目に入ってきたのが、この里帰りの風景であった。そうだ人々の心の故郷は自分が生まれ育ったこの里山にあるのだ。何時までも飽きることのないこの里山の中で暮らすことの豊かさを感じてもらえる家をつくる。それこそが、自分が夢に描いていた家づくりである。それは揺るぎない自信へとなっていった。「里山工房」にしようとある女性に話したところ、それだったら山を平仮名にしたら優しくなりますよ。と言われ、女性の視点というのは大切であると感じた。「里やま工房」が生まれた瞬間である。
毎年この時期になるとこの事を思い出す。初心忘れるべからずの心構えを必ず一年に一度思い出させてくれる里帰りの風景である。