《コラム》10 「薪」
煙突からのぼる白いけむり。寒い冬の季節にそのけむりを見るだけで家の中が暖かそうに感じる。昔は田舎の家の屋根にはどこにでも見られた風景である。時代は進み、電気・ガス・石油、エネルギーは進化して家の中で火を焚くことは皆無になった。しかし、しんしんと降る雪を窓の外に見ながら、薪ストーブの燃える火を眺めていると何時までも飽きない。人が火を見て懐かしく感じる本能は捨て去ることは出来ないのだろう。厳しい雪国の暮らしを少しでも楽しんでもらおうとモデルハウスにも薪ストーブを設置している。
それには焚くための薪を調達しなければならない。スイッチひとつで暖かくなるエアコンとは訳が違う。今年も毎年お願いしている方の山へトラックに乗って薪を取りに行った。その方はもうすぐ八十歳になろうかという高齢であるが矍鑠としている。若い頃から農作業をされていたそうで体の鍛え方が違う。薪作りにはこだわりがあるという。木を切る時期は十一月と決めている。いわゆる伐り旬と呼び建築用材と同じ時期である。材種は、クヌギ、コナラ、カシ、サクラ、ケヤキ等の広葉樹と呼ばれる火持ちのする木であり、針葉樹はない。これらの木は堅くて重い。そしてこの木を全て斧で割るのである。試しにやってみるが十分も持たない。この方はこの作業を朝から夕まで一週間続けている。人間鍛えると、ここまで出来るのである。若い頃は毎年場所を変えて木を伐って薪を作っていたそうだ。それが森の自然を守っていたのである。
ところで、日本の斧には片側に三本、反対側に四本の筋が入っている。その意味は、三本は山の神・火の神・鉄の神を表し、四本は地(地面)・水・火(太陽)・風(空気)を表していて、それを伐る木にもたせかけて「これから伐らせてもらいます」と感謝を捧げて拝むとされている。又、身(三)をよ(四)けるという意味もある。何れにしても自然の恵みに感謝し、それを生業として生きてきた日本人の自然への礼儀があったのである。
この冬の暖房の燃料は確保できた。自分で作ったわけではないが山へ行って運んだだけでも充実感がある。お礼を言って帰り際に、「来年はもう出来ないかもしれません」と寂しそうに言われた。また一つの時代が終焉するのであろうか。
今年の薪運びの様子はコチラをご覧ください→ 「薪運び」