《コラム》11 「蕎麦」

投稿日:2015.01.13

「二百十日の昼までに播け、そしたら播いてから七十五日の夕飯には間に合う」

父が口癖のように話していた言葉である。一度、二百十日から三日遅れて播いたことがあるが、さっぱりとれなかった。蕎麦の種を播き、刈り取って収穫するまでの期間は短い。全国何処へ行ってもご当地の名前を冠とした蕎麦店がある。時代劇を見ていても必ずと言っていいほど蕎麦屋が出てくる。日本に古くからある伝統食である。どうしてそれほどまでに何処にでも蕎麦屋があるのか…それは自分で作ってみるとよく解る。

 

 

第一に栽培が簡単である。土さえあればできると言っても良いくらいだ。蕎麦播きというだけあって土の上に種を播き、鍬で軽く土をかぶせるだけ。肥料や水をやらなくても五日もすれば芽が出てくる。私が子供の頃は山で蕎麦を作っていたことを覚えている。村では毎年場所を決めて山の木を伐って燃料としての薪を確保していた。「かりゅう」といって、その後の残った下草を燃やし、そこに蕎麦種を播いて栽培していた。いわゆる焼き畑農業である。その頃の森は自然の循環システムがあり、きっと健康な姿をしていたのであろう。
播くのは簡単だが収穫は手間がかかる。蕎麦引きというように、茎ごと引いた蕎麦をわらで束ね、稲木にかけて天日で干す。乾いたら稲木から下ろし、すりこぎで叩いて実を落とす「そばかち」を行い、その実を製粉所で粉にする。ここまでが種を播いてから七十五日目である。
いよいよ蕎麦を打つ。蕎麦屋が古くから全国何処にでもあるのは使う材料がシンプルという理由もある。わが家では繋ぎに山で掘った自然薯を使う。蕎麦粉と自然薯と水。何処でも手に入る材料である。材料はシンプルであるが打ってみるとこれがなかなか難しい。水の分量はその日の天気と湿度によって微妙に調整していかないと固くなったり、柔らかくなってしまう。これは場数を踏まないと上手にならない。
今年も料理店がミシュランガイドで星をいくつ取ったとテレビで流れていた。都会の高級料理店の姿を見て羨ましいと思うなかれ、自分で種を播き、収穫し、自分で作ったものを食す。これほど本物の暮らしがあるものか。田舎の暮らしの豊かさを実感する瞬間である。

 

 

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蕎麦畑の様子。右写真は山で掘ってきた自然薯。

 

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湯がいた蕎麦は雪解け水で洗います。かやくに柚子を入れるのがポイントです。

 

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