《コラム》15 「春が来た」
♫春が来た 春が来たどこに来た~山に来た 里に来た 野にも来た♪ 待ちに待った春が来た。私たちの故郷、但馬・丹後の住人にとって、この時期には特別な思いがある。十一月から三月までの五ヶ月間、太陽の陽を浴びる日は数えるほどしかない。鉛色の空と冬の季節風、雨や雪が降る冷たくて暗い陰の季節である。鉄道の路線名も山陰本線と呼ばれる。因みに瀬戸内に面して走る路線は山陽本線である。
人柄までも陰の様に思われているところもある。内気で感情をあまり表に出さないので暗い雰囲気のように言われる。その要因を冬の間は閉じ込もって暮らしているからだと、もっともらしい理由をつけて表現する人もいる。その地域の風土が人を育てることに繋がるのは確かかもしれない。しかし何もマイナス要因ばかりではない。春の訪れまでじっと我慢強く厳しい冬を乗り越え生きていく力強さを持っている。 三月を迎え、立春の暦が出てくると春の空気が感じられる。頬に当たる空気が優しくなり、なんとなく深呼吸をしたくなる。山が新緑になる前に春の訪れを教えてくれるのが「こぶし」の花である。この花は時期が来るとある日突然といっていいほど一斉に咲く。この花を見ると気持ちがわくわくしてくる。「さぁー、春がきた」梅が咲き、桃が咲き、桜が咲くころになると農家は一斉に動き出す。冬の間静かにじっと雪の下で栄養を蓄えていた土を耕して田んぼの準備が始まる。田舎の暮らしは決してスローライフではない。とにかく忙しいのである。 山の色がどんどん変化していく。若芽色・若苗色・若葉色・若草色・萌葱色・草色。これは若葉の色を薄いのから濃い色の順番に並べたもので、日本の言葉の文化の奥深さを感じる。百花繚乱の季節を迎え山の木々も、庭の草も、虫も、花も、森羅万象一斉に息を吹き返し、生きる事の楽しさを爆発させるような春が来たのである。
ここで一句
行く春を惜しむ間もなし野良仕事
京丹後市久美浜町にて 「早く芽を出しますように、おいしく育ちますように」