《コラム》20 「電機柵」
田んぼに面した道路を走っていると、その周りには必ずと言っていいほど規則正しくポールが立っており、そのポールには五段程度に細いケーブルが張り巡らしてある。獣が田んぼの中に入らないようにする為のもので、弱い電気を通した電機柵である。近年、シカやイノシシが増えてきて、民家の庭まで出没するようになってきた。
農家にとっては丹精込めて育てる作物を食い荒らすシカはとても困った存在であり、我が家もその被害にあっている。五月に田植えをして二十日くらい経った頃、田んぼを見るとシカの足跡に沿って、成長した苗の水面から上の部分が食われて短くなっているではないか。これから分蘖をして成長する矢先に食われると腹が立つ。苗を育て、田んぼを耕し手間暇かけてやっとここまでこぎつけたところをひと晩でこの状態にされたら情けなくなる。このまま被害が続けば収量にも大きく影響し、農家にとっては死活問題である。その被害から農作物を守る手立てとして最も手軽でコストを安く抑える方法が電機柵の設置なのである。
しかし、なぜこんなにシカが増えてしまったのだろうか。その原因の一つが冬の道路の凍結防止剤として撒かれる塩化ナトリウムにあると言われている。シカは食べ物を消化吸収する際に塩分を必要とする。塩分不足は死につながるため、動物園では餌と共に必ず塩を与えている。冬になると山肌が雪で覆われるため、野生のシカは岩や土に含まれる塩分の摂取が難しくなる。交通の安全性を高めるために撒いた塩が、シカにとっては厳しい冬を乗り切るための貴重な栄養源となっているというのだ。そういえば、冬に道路まで出てきて路面を舐めているシカを見たことがある。田んぼの周囲に張り巡らしてある電機柵はのどかな田舎の風景にはそぐわない。しかし、冬の交通の安全確保も大切である。
生物多様性の自然を守りながら、故郷の人々の暮らしを支えることは簡単なことではなさそうだ。
畑にも電機柵を設置。シカはジャンプして入ってくるので、できるだけ背の高い電機柵をしておく。